僕とアイツ、アイツとアイツ


「何をさっきから考えてるんだ?」
彼女が隣で尋ねた。
「ん?ちょっとね。」

僕は業と明るく言った。
でも彼女はそれに気付かないで
「相変わらず変な奴。」
っと詰まんなそうに言った。

 いつだって僕の近くには彼女がいる。
ガサツで不器用で、そのくせ短気で……
まるで弟のような、そんな奴。
そのくせやけに傷つきやすい、繊細な奴。
それは僕も解っているし、彼女も解っている。
だからこそ何時も一緒にいられる。

 僕はいつだってそんな彼女の事を可愛いと思っている。
恥じらいなく大声で笑う声や、チョットした事に腹を立てて、
真っ赤になって膨れる顔や、くだならない事で急に沈み、
泣きそうになる横顔とか……。
そんな彼女の事と一緒にいる事を幸せに思っている。


 そんな彼女との出会いは小学校のころで、
僕が何時も通り昼休みにサッカーをしている時の事だった。
丁度隣のクラスと一点差で負けていて、
ストライカー気取りの僕としては、
すごく焦っていてピリピリしていた。
チームにボールがまわると、すぐさまゴール前に走り込んで、
親友の結城のセンタリングを待った。
案の定、ゴールより手前のアタリにボールがきて、
僕はすぐそれに合わせた。
コレで同点−そう思い、ボレーを打った。
ボールの感触がシッカリと足で感じられ、
それを力任せに蹴り飛ばす。
ボールは勢いよくゴールを・・・越えてしまい、
そのボールはゴール裏の砂場に落ちた。
僕はがっくりと膝をついた。
その後に来る責任感と嫌悪感に挟まれて
しばらくその場から動けなかった。
結城は「ドンマイ。」と肩を叩いてくれたが、
その言葉が何よりも残酷だった。
僕がずっと座り込んでいると、場を悪く思った結城が、
急いでボールを取りに行ってくれた。
僕もそれにゆっくりと後を付けていった。
そんなとき、一人の男の子がボールを持って結城に近付いて行った。
そして何やら結城が困惑しだしたようなので、急いで駆け寄った。
「どうしたんだ?」
そう結城に尋ねると、
助かったっとも言わんばかりの目を向けてきた。
その前には半ズボンとTシャツの、よく見れば女の子がいた。
顔を真っ赤にして膨れ、怒っていた。
どうやらボールが当たったらしい……と結城がそっと教えてくれた。
僕は急いで彼女の方を向き、謝った。
「ごめん。」
そう頭を下げた。
それでも彼女は顔を真っ赤にしたまま、
いっこうに落ちついた様子はない。
そして彼女がゆっくりと口を開いた、
と思った瞬間、手が胸元に伸び引っ張られた。
僕は不意を付かれた、まさか女の子に胸倉を掴まれるなんて、
夢にも思っていなかった。
それと同時に鼓膜が破れる位の大声で、怒鳴り出した。
「キサマは女の子にボールぶつけて、
大丈夫かって聞けないのか!!」
胸倉を掴まれている事もあり、取り敢えず謝った。
「大体ね、この狭い校庭でサッカーをする事が間違ってるのよっ!」
「それに加えてあんたみたいな下手糞が、
シュートなんか打つもんだから、こうなるのよ!」
たしかに自分のせいでこうなったとは言え、
ここまで言われると腹が立ってきた。
だからと言って言い返す事は出来ず、
遣り場のない怒りがドンドンと溜まっていく。
「悪かった。怪我はないんだな。」
そう申し訳無さそうに言ったつもりだったが、
遣り場のない怒りが喉から顔を出してしまい、
いい加減に言ってしまった。
案の定、その子は手を握り震えさせていた。
ヤバイっと思って結城の方を向いたが、
その瞬間、腹部に重いものが入った……。

 それが彼女との最初の出会いだった。
その後僕は結城に担がれて、教室に戻った。
放課後に彼女は僕の所へ泣きながら謝りに来たのを覚えている。
勿論その場で喧嘩になり、結城が押さえて取り敢えずは解決した。

 小学を卒業して、俺と結城と彼女は同じ学校に入った。
元々性格が災いしたのか彼女は同性の友達が多くはなく、
よく僕達とつるんでいた。
そのまま高校も一緒になり、腐れ縁とは言っていたものの、
悪い気はしていなかった。


「おい、まだ考えてるのか?」
彼女は痺れを切らし、そう言った。
僕ははっと我に返り、笑顔を作り「まっまぁ……。」と曖昧に答えた。
彼女はいい加減にしろと言いたげに、僕の方を見る。
少し気まずいので話し掛けようと思った。

「なぁ。」
壁に寄りかかり天井をぼーっと見つめながら、彼女に言った。
「ん?」

「あの時は何処にボールがぶつかったんだ?」
タバコをくわえて、とくに考えなく尋ねた。
「あの時って一体いつだよ?」
僕はタバコに火をつけようと、ライターを探した。
「ほら、小学校の時の……。」
床には落ちてないらしい、仕方がなく立ち上がり、ポケットを探る。
「なんだよ突然……。」

少し笑いを含めて、彼女は言った。
「アレはね……実は嘘だったんだ。」
床に落ちている、紙くずをつまんでは投げた。

「やっぱりね……。」
テーブルの上を探って見たが、見つからずタバコを捨てた。

「なんだ気が付いてたんじゃん。」
小声で呟いた。
「そういえば私、あなたの事蹴ったんだっけ。」
口もとを押さえて、思い出したように笑った。

「いや、ボディーブローだ。……重い奴。」


痛かったけど、僕と彼女の最高の思い出だった。
あの日がなければ、僕と彼女は一緒にいられなかった。
一緒に笑ったり、一緒に悩んだり、一緒に泣いたり。

「邪魔して悪かったな、あの時の俺。」

思い出は何時だって、僕の味方だった。
でもそれは思い込みだったのだ。
確かに僕と彼女は出会った。
そして彼女と結城も……。

「そこまで気付いていたんだ……。」
彼女はただフローリングを見つめている。

「俺はお前とどのくらい付き合ってるんだと思ってるんだよ。」

彼女の隣に座り、ぽっんと頭に手を置く。
彼女は膝を抱えて天井を見上げながら、「そうだよなぁ。」と呟く。

「知ってたんだぜ……。昔から。」

本当は知らなかったんだけど、
そういう事を言う事で少しは大人になった気分になる。
あの頃から僕は変わっていなかった。
子供のままで彼女の側にいた。
だから最後位は大人っぽい所見せたかった。
それが今の彼女への、僕が出来ることだった。

「結婚おめでとう……。」
誰に言う訳でもなく、天井に向かって呟いた。

「……ありがとう。」
彼女は涙を溜めたて、僕の袖に顔を擦った。
僕も涙を溜めて、ゆっくりと彼女の頭を抱えた。
いつも側にいても気がつかなかった、
シャンプーの匂いに、初めて気が付いた。

そして初めて彼女を「好き」と想う気持ちに気が付いた。
けれども、彼女は手のとどかない所へ行く。
だから今だけ、その想いを募らせては、涙を流した。


来年の二月の初頭、結城とさとみは結婚する。
その時に僕は、どんなカッコをして会いに行けばいいのだろうか。
幸せそうな顔をした彼女を想像すると、もう2度と頭を小突けない。
そんな気がしてしょうがなかった。
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